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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.9 結晶成長から広がる世界
理学研究科 地学専攻 丸山 美帆子

中学生の頃、地球の環境問題を学びました。二酸化炭素増加による地球の温暖化、オゾン層の破壊…。たくさんの恐ろしい問題が、地球規模で起こっている。なんとかしなければならない…!! 思い返せば、地球について学ぼうと思った入り口は、中学生の頃のこの経験です。幼いながらもどうすればこういった地球の環境問題を解決できるのかを一生懸命考えた記憶があります。 高校生になって進路を決定する際には、冗談ではなく本気で「地球を救いたい。」と思っていました。こんな小さな人間に何ができるのか?そもそも、地球を救いたいのならばまず地球についてより詳しくならなければだめではないのか。それが、大学の学部を選択した理由です。

そんな私が今いる研究室は、地学系の資源・環境地球化学分野という研究室です。研究室の名前を言われてもピンと来ないと思いますので、具体的にどのような研究をしているのかを説明します。

研究の対象は、“結晶”です。結晶の定義はなかなか難しいのですが、原子や分子のような粒子が規則正しく配列してできたものが結晶であると言えます。結晶と聞いてすぐに頭に浮かぶのは、水晶のような美しい形を持った鉱物や雪の結晶かもしれません。ですが、私たちの生活の中には、その他にも様々な場所に結晶が使われています。女性が毎日顔に塗っているファンデーションや口紅などの化粧品にも、結晶が使われています。携帯電話やパソコンも結晶が無くては動きませんし、クリスマスシーズンなどに夜空を彩るイルミネーション、そして薬や調味料にも、結晶が使われています。生物や有機物が関与すると、写真1に見られるような複雑な結晶が作られることも知られています(Young&Henriksen, 2003)。私たちの研究室では、こういった“結晶”がどのようにして大きくなっていくか―つまり、結晶の成長について研究しています。

空から降ってくる雪の結晶をじっくりと見たことはありますか?注意深く観察すると、結晶の形は千差万別です。実は、結晶ができる環境(温度や湿度など)が異なると、結晶の形や表面のパターンが変化します。これは他の多くの結晶にも同様に言えることで、私たちは、様々な結晶がどのような環境でどのような形状や表面パターンを示すのか、その成長速度はどれくらいなのかなどを、原子や分子のスケールで観察しています。一見平らに見える結晶の表面も、高分解能な顕微鏡で拡大していくと、とてもユニークなパターンが見えてきます。写真2に見られるのは結晶の表面に存在する分子でできた階段(=ステップ)です。結晶の成長は、こういった分子のステップに新たに原子や分子が取り込まれていくことで起こります。この分子の取り込みの過程を詳細に観察して理解することで、より良い結晶や目的にかなった形の結晶を得る事が可能になるのです。

さて、このような研究をしている私ですが、『昔の夢』と『今の自分』がどうつながるかを少しお話しましょう。前半に書きましたが、私の昔の夢は地球のお医者さん(笑)。環境問題に興味を持ち、なんとかしなければと思いながらも、具体的に何をどうすれば良いのかは全く知りませんでした。今は、大学院で結晶成長を学んでいます。『環境問題』と『結晶成長』、言葉だけを並べると一見全く無関係のようにも見えますが、結晶成長の知識は、前述の通り様々な分野へ応用されているのです。もちろん、環境問題への応用も進んでいます。結晶を作る技術は、地上の二酸化炭素の固定や核廃棄物の処理という視点からも欠かす事のできないものです。環境問題への具体的な取り組み方の一例を学んだ今、初志貫徹して『環境問題』というキーワードの一本道に進んでいくのも一つの人生かもしれません。ですが、今の私は、『結晶成長』というサイエンスそのものに興味を見出しています。基礎的な分野であるがゆえに、幅広い可能性を持っているからです。

実験を行うために、時には他の研究室に行って実験をすることもありますし、航空機を用いた無重力環境で仕事をする事もあります(写真3)。また、得られた研究成果は、国内外の学会で発表することになります(写真4)。こうした研究の過程では様々な出会いや経験があり、私にとってはとても魅力的です。将来どの分野に方向を定めて歩んでいくかはまだお答えできませんが、今は研究者のタマゴとして、人と人とのつながりを大切にしつつ地道に顕微鏡を眺める毎日です。

最後に皆さんにメッセージですが、何かに興味を持つと、それが次の興味や進歩につながっていきます。一つのことに固執せず、柔軟に新しいものを取り入れることができたら、おのずと道が開けていくのではないかと思います。お互いにがんばりましょう!

写真1:BIOMINERALIZATION; Dove, P. M.; De Yoreo, J. J.; Weiner, S., Eds.; Reviews in Mineralogy&Geochemistry, MSA: Washington, DC, 2003, 54, Chapter 7, pp 189-215 より



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