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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.11 青葉山から望む海
理学研究科 物理学専攻 久保 ちはる

こんにちは、はじめまして。理学研究科、物理学専攻の久保ちはるです。これまで物理学の中でも比較的数学に近い素粒子理論という分野を研究してきました。そして4月からは就職することが決まっています。そのためちょっと回想的で毛色の違うコラムになっていますが、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

私は毎日青葉山を歩いて登っています。私の通学時間は家から青葉山ふもとの川内キャンパスまで自転車に乗って約20分、川内から青葉山の理薬キャンパスまで自転車を押して登って約20分の計40分。通学が大変じゃないかと驚かれることもありますが、これは私にとって、青葉山の美しさを味わうとても大切な時間です。普段は自転車を押すために道路の脇を登りますが、自転車がないときには決まって川内テニスコート付近から薬用植物園につづく裏道を通ります。裏道は階段で登る山道なのですが、途中花壇や川があったりしておもしろいです。春は山桜や鶯の鳴き声を楽しみながら、春から夏にかけては日々色濃くなってゆく緑の成長を楽しみながら、青葉山を登ります。秋は紅葉、冬は雪化粧で浮かび上がる木々の枝ぶりがとても美しいです。・・・と、こんな具合に私は目の前に広がる青葉山の自然が大好きです。そしてそれに加えて、特に『青葉山に登ることで海が望める』という点が、私の中での青葉山をとても特別なものにしています。

実は私は“青葉山から望む海”が、物理学に似ていると思っています。大学1年時、大部分の講義を川内で受けていた当時の私は海の存在をほとんど意識していませんでした。『仙台は海が近いらしい』くらいの認識です。大学2年の後期にはメインのキャンパスが青葉山になり、川内から青葉山に登る途中の眺めを楽しむようになったものの、そこからも海は見えませんでした。そして大学3年次、初めて青葉山図書館3階の隅の席からほんの少し海が見えることを発見したのです。これは私にとって大きな衝撃でした。“そこに海がある”と知っただけで、それからの毎日の生活がちょっぴり豊かになった気がしたからです。私にとっては、物理学もこの海と同じような豊かさをもたらしてくれる存在になっています。物理学によってわかる不思議な諸現象―――量子力学、相対論、宇宙論によってみえてくる不思議な世界の構造。私は“この世界にそういった構造がある”と知るだけで毎日の生活がより輝くように思うのです。青葉山に登ることで遠くに広がる海の姿がみえたように、物理学を学び、研究することで時間も空間も超えた宇宙の不思議がみえてきます。それってとても素敵なことだと思いませんか?

私の研究室のある理学総合棟の9階、10階から望む仙台の眺めは、手前に青葉山の緑、山の間から仙台の街並み、そしてその後ろには海が広がります。天気がよければ海に浮かぶ船までみえるくらいです。他の建物からでも眺めは楽しめますが、私は総合棟の角度からの眺めが一番美しいと思います。素粒子理論から望むこの世界も、とても奥深くて、興味深くて、魅力的です。私は素粒子理論の視点からこの世界を眺めるのが一番見晴らしが良いように感じています。私の大学院生活は、青葉山にある研究室で日々素晴らしい眺めを楽しみつつ物理学に取り組むという、とても贅沢で素敵なものでした。幸運にも春から働く職場もとても見晴らしが良さそうです。海は見えなくても、今度は青葉山からは見ることのできなかった富士山が望めるのではないかと期待しています。もうすぐ大好きな青葉山からは離れることになりますが、私は青葉山に登ることで知った、その海の存在をきっとずっと忘れないでしょう。このコラムを読んでくれた皆さんも是非、毎日の生活をより輝かせてくれるような、自分にとってのそんな存在を探してみませんか?

写真1:青葉山を自転車を押して登る自分
写真2:研究室の入っている理学総合棟
写真3:理学総合棟9階からの眺め



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