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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.16 ナノテクと向き合う 〜小さな小さな微粒子の世界より〜
工学研究科 化学工学専攻 山内 紀子

こんにちは。工学研究科 化学工学専攻 博士課程後期2年の山内紀子です。

私の研究室では、数μm(マイクロメートル)〜数nm(ナノメートル)の小さな小さな粒子(微粒子)を作っています。1μmは1mmの1000分の1の大きさ。1nmは、1μmのさらに1000分の1の大きさです。肉眼でやっと確認できるミジンコの大きさが1mmくらいですから、どれだけ小さいか想像できるでしょうか。このような目に見えない、本当に小さな小さな世界で、私たちは微粒子の大きさや形をコントロールしています。

微粒子は、今大変注目されている材料の一つです。
 まず、微粒子は小さな隙間に入れることができます。例えば、微粒子の中に薬を入れて、毛細血管を使って体内の細部まで薬を運ぶドラッグデリバリーシステム(DDS)。DDSによって、必要な薬を必要な場所に必要なだけ届けることができれば、副作用の抑制が期待できます。
 さらに微粒子には、体積あたりの表面積が大きいという特徴もあります。例えば、直径2cmのビー玉を砕いて、直径2μmの微粒子を作ろうとすると、なんと1兆個もできます(直径2μmの微粒子を1兆個合わせると、直径2cmのビー玉の体積になります)。この直径2μmの微粒子1兆個の総表面積(12.6m2)は、東京ドームの面積の4分の1にもなります。この体積あたりの表面積の大きさを利用して、微粒子は触媒などに幅広く利用されています。

私自身の研究テーマは、300nmくらいのポリスチレン微粒子の中に、磁性粒子(マグネタイト粒子)を包含した磁気応答性微粒子の合成です。写真1は、私が合成した微粒子を、電子顕微鏡(電界放射型透過電子顕微鏡)で観察した像です。灰色の大きなまるい影がポリスチレン粒子で、その中にある黒い小さな粒々が磁性粒子です。
 磁性粒子が入っている微粒子は、磁石の力で容易に集めることができます。そこで、細胞やタンパク質、DNAなどの分離・精製技術への応用が期待されています。例えば、血液中からDNAだけを取り出したいとき、微粒子表面にDNAを吸着できるタンパク質を付与しておきます。この微粒子を血液中に入れて混ぜた後、磁石を近づけるとDNAが吸着した微粒子を素早く集めることができます。このような操作をより速く、より正確に行えるようにするため、私は一つ一つの微粒子の大きさを揃えることや、一つ一つの微粒子に入れる磁性粒子の量を増やすことを検討しています。

実際の研究生活も、ちょっとご紹介します。
 朝、研究室に着いたら、パソコンの電源をON。メールをチェックした後、白衣を着て実験室へ。まず、微粒子を合成するための反応装置を組み立て、試薬を量り準備します。続いて、反応装置に各試薬を入れて、微粒子の合成開始。実験を軌道に乗せるまで2〜3時間かかります。その後、デスクワーク用の部屋に戻って、手動ミルでコーヒー豆を挽き、コーヒーを入れます。コーヒーを飲みつつ、パソコンで実験データを整理。
 お昼に学生食堂へ行くと、おばちゃんたちが元気に迎えてくれます。午後も実験をしながら、前日作った微粒子を電子顕微鏡で観察。目に見えないサイズの微粒子なので、電子顕微鏡で観察して初めて形態が確認できます。予想通りだったり、予想外なものができていたり・・・。喜んだり、ショックだったり(苦笑)。でも、このドキドキ感がこの研究の醍醐味ですね。得られた結果を踏まえて、次の実験条件を決めていきます。結果がまとまってきたら学会で発表するため、発表用スライドも作成します。
 ・・・こうして夜になり、机の上で飼っている魚(体長2cm)に餌をやり、机の上で育てているコーヒーの木(背丈10cm、・・・実はなりません)とヤシの木(背丈30cm)に水をあげて帰宅します。

私の研究についてお話してきましたが、最後に。
 中学生、高校生、大学生の皆さんへ。自分の進む道について悩むこともあると思います。私もたくさん悩んできました。まず目一杯悩んで、それから人との出会いを大切に!仕事を頼まれることがあったら、ちょっと大変そうでも引き受けてみる。何かイベントがあったら参加してみる。そうやって動いたところには必ず良い出会いがあります。(サイエンスエンジェルの活動でも、たくさんの素敵な方たちと出会うことができました!)多くの人と出会って、語って、一緒に考えて、そして一人でもいっぱい考えて、その中に自分を高めるヒントがあるんじゃないかなと思っています。

写真1:合成した微粒子の電子顕微鏡像
写真2:実験室にて
写真3:電子顕微鏡での観察



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