Home>SAコラム
SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.21 眼から翅 (ハネ) がはえる!?〜器官をつくり出す遺伝子〜
薬学研究科 創薬化学専攻 医薬資源科学分野 中島 瑠美

こんにちは、薬学研究科の中島瑠美です。
 皆さんは「薬学」でどのようなことをしているのかイメージがわきますか?
例えば薬を作っている、薬がどのように体に作用するのかを研究している、薬剤師になる為の勉強をしている、などなど色々あると思います。ところが、私はその中のどれにも当てはまりません。一体何をしているのかというと、手や足といった器官がどのような遺伝子によって作られるのかを研究しています。この器官形成のメカニズムが解明されれば、人工的に器官を作り出し、治療困難な病気や怪我をかかえた人達を救えると考えています。一見薬学とは程遠い私のテーマですが、医療という点でつながっているのです。

私はキイロショウジョウバエをモデル生物として扱っています (写真1)。ショウジョウバエって見たことありますか?体長3mm程度で、鉛筆の先にちょこんと乗ってしまうような小ささです。自然界では果物などを好みますが、研究室ではトウモロコシの粉や酵母、寒天を使って清潔なエサを作り飼育しています。ショウジョウバエとヒトは、実は遺伝子レベルでよく似ています。つまりショウジョウバエを研究することで、ヒトなどの哺乳類にまで応用がきくということです。

私が今研究している遺伝子はwinged eye (翅になった眼)と名付けられています。幼虫の体内に存在する将来眼になる細胞で過剰に発現させると、成虫になった時になんと眼から翅ができるのです (写真2)。
 このことから、おそらくこの遺伝子はショウジョウバエにおいて翅の形成に関わっているだろうと考えています。しかし、その詳しいメカニズムはまだ分かっていません。また哺乳類でもよく似た遺伝子が存在するのですが、ほとんど研究されていません。私がいる間に少しでも解明するぞ!という意気込みで日々頑張っているところです。そしていつかは夢の再生医療です。皆さんご存知のiPS細胞やES細胞ももちろんありますが、実際に器官を作り出せる系が確立されている (翅の他にも、肢や触角も作ることが可能です) という点で少しだけリードしているのではないかなと思います。

薬学研究科でこのような研究をしているからかもしれませんが、「なぜ薬学部に入ったのに薬ではない研究を選んだの?」とよく聞かれます。当初は私も薬剤師になりたいとか、薬を作りたいと思っていました。研究室配属ギリギリまで有機化学系を志望していたくらいです。
 ところが、再生医療という言葉に魅力を感じ、ショウジョウバエの赤や白、オレンジのきれいな眼にときめき (変な人?) 、思い切って飛び込んだのがこの世界です。実験がなかなかうまくいかなくて、精神的・体力的にきつい時も多々あります。それでもなんとか頑張れるのは、やはり今の研究が好きだからだと思っています。選択肢に迷った時には、自分の直感を信じて進んでみると意外と当たるかもしれません。

写真1: キイロショウジョウバエ (左がオス、右がメス) です。メスの方が大きいですね。
写真2: 写真左:野生型のショウジョウバエの顔です。赤い部分が眼です。
写真右:winged eyeによって眼に翅ができた個体です。矢頭の部分が翅です。
写真3: 蛋白質を取るために、ショウジョウバエの卵を大量に集めたときの写真です。ケージの中に入っているプレートはぶどうジュースで作っていて、ここに卵を産ませます。茶色い点々は全部ハエです!



<このページの最上部へ>

<SAコラムの一覧に戻る>