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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.26 “今”始めてみませんか?
医学系研究科 脳機能開発研究分野 森戸 里衣子

年齢不相応に物忘れをするようになったり、自分の家族がわからなくなったり、最終的には寝たきりになってしまうアルツハイマー病。超高齢化社会を迎えると言われている今、知らない人はいないくらいの病気ですね。私は今、アルツハイマー病の脳ではどのようなことが起こっているかを、ちょっと特殊な顕微鏡を使って観察しています。生きたままの脳細胞を蛍光色素で染めることで、その形態や活動の様子を捉えることができるのです。

しかし、私がずっとこのような研究をしてきたかというと、実は違います。私はもともと薬学部出身で、大学入学当初は臨床薬剤師(入院患者さんへの薬の説明や、薬を使った治療の専門家として薬の投与設計に関わる薬剤師)になりたいと思っていました。そのため、人を対象にした臨床向きの研究室を選び、また、薬剤師免許を取ってからは週に一回薬局でアルバイトをしていました。「絶対、臨床薬剤師になろう」、「臨床薬剤師の育成が進んでいるアメリカに将来留学したい」と、自分の職業と言えば臨床薬剤師しか考えていなかった私。しかし、研究を続けていくうちに、いつの間にか自分の中で研究を続けたいという思いが強くなっているのを感じました。研究を続けるということが視野に入ってきたこと、そしてこの先ずっと研究を続けていくなら自分の一番興味のある対象である脳の研究をしたいと考えた私は、中途半端な時期ではありましたが、研究室を変える決意をしました。

このような経緯で研究室を移ってから約一年。研究分野が以前と全く違うので、移った当初は、基本から知らないことばかり。今はその頃よりはマシになりましたが、まだまだ知識も経験も足りないと感じています。研究室を変えなかった方が楽だったのは明らかですが、今の私に後悔はありません 人は、いつでもやり直しがきくと思います。いつになっても始めるのに遅すぎるということはない。これまでの自分の少ない経験からでも、やって後悔するよりもやらないで後悔する方があとに残りやすいと感じます。やる前からあきらめてしまうのはもったいなくありませんか?もしかしたら、始めてみたら意外と簡単にできてしまうかもしれません。みなさんも、何か心にくすぶっているものがあったら、“今”始めてみませんか?ほんの小さなことでもいいので、何かアクションを起こしてみてください。きっと、何かが変わるのを感じるはずです。

写真1: 写真右側が顕微鏡。脳をうすく切ったものを置き、できるだけ脳の中と近い環境にして観察します。
写真2: 記憶を司ると言われる、”海馬”という部分。切ると、こんなふうにうず巻き模様が見えるのが特徴です。
写真3: 神経細胞(赤色)と、それに腕をのばして取り囲むアストロサイトという細胞(緑色)。蛍光色素を使うことで、細胞をこんなふうに見ることができます。Allen and Barres, Nature 2009より。



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