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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.27 天文学はロマンティック?
理学研究科 物理学専攻 森本 奈々

私は現在、大学院で天文学を研究しています。「天文学の研究」というと、“毎日星空を眺めている”とか“ロマンティック”などのイメージを持つ人が多いかもしれませんが、現実はイメージとはだいぶ違っています。そこで、実際にはどんな研究生活を送っているのかを、私の場合を一例としてここでご紹介したいと思います。
 天文学の研究者には大きく分けて、実際に夜空を観測して研究を行う“観測屋さん”と、理論的な数値計算などによって研究を行う“理論屋さん”という2種類のタイプがいます(理論屋さんの中には観測を行う人もいます)。私は“観測屋さん”であり、望遠鏡で撮った画像データを使って様々な解析を行い、研究を進めています。画像データの解析は計算機を使って行うため、研究室ではいつもパソコンの画面とにらめっこしています。天文学を研究しているからといって、普段の生活において星空を観察するということはほとんどありません。画像データを使って何をしているのかというと、銀河がどのように成長してきたのか、ということを調べるために、120億年昔の宇宙にある銀河を観測しています。このように人間の目では到底見ることができないくらい遠くて暗い天体を調べるためには、大きな望遠鏡を使って何分間もかけて光を集めることが必要になります。

私が使っている画像データは、主にハワイにあるすばる望遠鏡で撮られたものです。すばる望遠鏡は日本の国立天文台がハワイ島マウナケア山頂に建設した大型望遠鏡であり、その反射鏡は直径8mもあります。大型望遠鏡を使いたい時にはプロポーザルという観測提案書を提出するのですが、すばる望遠鏡のような人気のある望遠鏡はなかなか使わせてもらえません。しかし、頑張って書いたプロポーザルが通ると、実際に観測を行うためハワイに行けます。すばる望遠鏡のあるハワイ島はあまり観光が盛んではないため、マウナケア山のふもとの町は結構寂れています。が、のんびりとしていて古きよきハワイを感じられます。

観測は山頂の観測所で行うか、もしくは山麓施設からリモートで行います。そして観測中は、天気が悪くならないか、雲がかからないかと気にしながら、パソコンのモニターで撮れた画像をどんどんチェックしていきます。観測中でさえも、向かい合っているのは星空ではなくパソコンの画面なのです。おまけに、高山病になることもあるぐらい酸素の薄い山頂での観測時には、具合が悪くなると酸素吸入を行いながら観測をすることもあります。そうなるともう必死の観測であり、とてもロマンティックなどとは言えない状況です。ただ、山頂での観測の際には山の中腹にある施設に宿泊するのですが、ここで見られる夜空はとてもきれいです。こんなにたくさんの星を見たことは無い、と思うくらい夜空一面星でいっぱいで、あらためて宇宙への興味を掻き立てられます。そうして観測が終わって研究室に戻れば、再びパソコンと向かい合い、取得した画像データに様々な処理を施して解析を行っていきます。日々、求める解析結果を得るために奮闘しています。

これはほんの一例ではありますが、全体的にも実際の天文学研究は皆さんのイメージとはだいぶ違っていると思います。それでも、天文学という学問が面白いものであることには違いありません。他の研究分野でもそうであるように、誰も知らないことを研究するというのはとてもわくわくするものですし、特に研究対象が“宇宙”という未だに多くの謎を含んだ魅力的なものであればなおさらです。ただ単純に、まだ誰も知らないことを知りたい、という好奇心から研究ができるということはとても幸せなことです。
 このように現在は天文学を研究している私ですが、実は昔から文系科目が得意で、逆に数学や物理といった理系科目は大の苦手でした。それでも、天文学を学びたい、という目標を持って理系に進み、なんとか大学では物理学科に入学しました。大学入学後もやはり苦手な数学と物理の授業ばかりで非常に苦労しましたが、そんな状況でも何とかここまでやってこられたのは、やはり興味を持って取り組んでいるからだと思います。今まで、向いていることよりも好きなことを、と考えて進路を選択してきました。その結果、相変わらず苦労はするものの、今は好きなことができる喜びと充実感を存分に味わっています。

写真1: ハワイ観測所の山麓施設の前で撮影。
写真2: マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡。下には雲海が広がっています。
写真3: 山頂観測所にある観測室内の様子。モニターがたくさん並んでいます。
写真4: 天気が悪い日もあるため、山頂の観測室内にはてるてる坊主がたくさんぶらさがっています。



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