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報道記録
    7月13日 NHKラジオ第1「日曜あさいちばん」大隅副室長出演 放送内容
    日曜訪問「科学者を育てる」
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    インタビュー「日曜訪問」、今朝は、東北大学大学院教授で脳科学者の大隅典子さんです。
    大隅さんは、脳のメカニズムを遺伝子レベルで解明する研究プロジェクトのリーダーを務める、日本を代表する脳科学者の一人です。
    大隅さんは、世界最先端の研究を続ける一方で、若い科学者を育てることにも精力を注いでいます。科学の裾野を広げたいと奔走する脳科学者、大隅典子さんに佐治真紀子さんがお話を伺いました。

    (下記、敬称略)
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    佐治:こちらが東北大学医学部の、大隅さんが普段いらっしゃる研究室ですね。

    大隅:はい、そうです。

    佐治:ラットがいるんですね。

    大隅:ええ、こちらの白い方の少し大きいのがラットで、黒い小さい方のがマウスですね。私たち、脳の発生や発達を研究しているので、胎児の時期から、こういったその生まれてからもですね、順々に脳が大きくなって機能が営まれるようになりますけれども、そういったことを、分子レベルや細胞レベルで調べているので、その実験材料としてマウスやラットを使っています。

    佐治:大隅さんはブログの中で、実験の対象物というのは、やっぱり自分がずうっと見てて、見飽きない好きなものがいいっていうふうに書いていらっしゃいましたけど。

    大隅:そうですね。

    佐治:やっぱり、こう、好きですか?見ていて。

    大隅:そうですね。ぼーっと、こうネズミを眺めていると、癒されるっていう感じですね。

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    佐治:大隅さんは、小さい頃は脳科学者ではなくて、色々と他になりたい職業があったそうですね。

    大隅:ええ、色々あってですね、実はそのアナウンサーとかですね、今だったらキャスターっていうんでしょうかね、それから建築家ですね、あと雑誌の編集者、それからちょっとおもしろいところでは料亭の女将っていうのもちょっとありまして、料亭の女将の部分は、研究室を10年ほど前から主催するような立場になったというのが、ひとつの実現した感じなのかな、と思っています。研究室というのは、ある意味お家であったり、料亭であったり、っていう感じですね。で、私は女将として、営業活動もしつつ、楽しく過ごして仕事をしてもらうためにはどうしたらいいのかな、と考えたり。また、その雑誌の編集の、とてもプロには及びませんけども、市民向けの研究を伝えるニュースレターの編集を行ったりとか。そんな形でやれているのかな、というふうに思っています。

    佐治:で、実は歯学部に入られて、顔の発生のメカニズムを探るという、そういう研究から脳の研究に移った、という珍しい経歴をお持ちということなんですが。
    今はこちらでは、どのような研究をされているんでしょうか?

    大隅:最近言うところの「出口に近い研究」っていうんでしょうかね、としては、いくつになっても脳細胞は作られる、ということが実はこの15年ぐらいで分かってきまして。
    かつては、3歳ぐらいがね、脳細胞の数のピークで、あとはどんどん死んでいくだけ、というふうに言われていたわけですけれども、それが現在ではそうではないですよ、と。いくつになっても、佐治さんの脳の中でも、日々、海馬と呼ばれるようなところでは、実はその細胞が作られている。すごいダイナミックなことが脳の中で起きているわけなんですよ。

    佐治:もう死んでしまってばっかりいるのかと思っていました。

    大隅:いや、そうじゃないんですね。

    なので、その状態が例えばいいと学習効果が上がるというような論文も出ていますし、逆にその脳の中で新しく細胞が生まれるのが低下してしまう、悪くなってしまうということと、例えばうつ病というような心の病の間に関係があるんではないかと、いうような研究もあったりするんですね。
    なので、そういった脳の中で新しく細胞が作られる、その仕組みを明らかにして、それをうまく作っていくためには、じゃあどんな助ける方法があるかと、いうようなことを、少し栄養学的な観点から、うちの研究室では今進めているというようなことがありますね。

    佐治:はー、すごいですねぇ。
    大隅さんは日本を代表する脳科学者のお一人で、本当に数々の世界的な研究成果も出されているわけですが、あの、科学者の育成にですね、力を注がれていて、まず一つ、女性の科学者を増やしていこうと、取り組まれてますね。

    大隅:はい、私にとっては、あの別に科学をすることが、例えば論文ですね・・・この辺散らかっていますけれども、論文はその本人を知らなかったならば、例えば外国人のお名前だったりすると、その方が女性なのかも男性なのか全く分りませんし、それが女性的な論文とか、男性的な論文というのがあるようには、とても見えないんですね。
    ただ、一方で、実際に研究の場に行きますと、例えばその学会というような、実際にその人たちがそれぞれ自分の研究成果を発表したりします。そうするとやはりそこの中には女性だ、男性だというよりは、パーソナリティですね。この人は、ああこういう研究スタイルなんだとか、こういう研究手法が好きなんだとか、そういったその個性というものはそれなりにその出てくると思っています。
    なので、私はやっぱり生物学者ですから、「憲法の下の男女平等」というのはとりあえずいいとして、でも男性と女性というのが違うというところがむしろ出発点であり、それは別にわざわざ取り立てて言うほどのことでもないと、いうふうにも思っています。
    なんですが、欧米と非常に違う点は、四年生の大学への進学時点で、今ですと、欧米でだいたいフィフティフィフティですね、1:1。日本の場合には、これが大学入学時点で3:1なんですね。25パーセントからスタートしている。なので、ここの25パーセントを、本当に50パーセントぐらいまで、何か理由があってそうなってないんだったら引き上げたい、という気がするんですね。
    例えばある高校生の女の子が「理系に行きたいわ」というと、お母さんが「ええ?そんなこと言ってあなたどうするの。お嫁に行けないわよ、そんなところ行くと。」みたいに言われてしまって、「ああ、そうかな」っていう、そこをなんとかしたい。もし本人が科学が好きじゃなければそれはしょうがないんですけれども、自分がやりたいと思っている人がいて、だけどそれが何か周りの理解が足りない、ご両親だったりその先生だったりが「女性が理系に行ってもどうするの?」「科学者なんかになってどうするの?」っていうところをなんとかしたい、というのがまず一番なんですね。
    というのは、うちは両親ともに生物学をやっている研究者だったので、うちにとっては当たり前、それは周りにそういうロールモデルがいて、することが別に普通というか、不思議ではないというか。そういうことが小さい時からそういうふうに接していれば、違うんじゃないかな、というふうに思ったのが、一つのきっかけといえばきっかけですかね。
    こっちに来ても大丈夫だよ〜と、大きな声を出して呼んであげるとか、そういったほんのちょっとしたきっかけが違ったということにつながっていくんじゃないかな、と私はそういうふうに思っています。

    佐治:大隅さんの発案で始まった、東北大学の理系の女性の大学院生達が、高校生などに、自分たちのやっていることですとか、科学の楽しさを伝える「サイエンス・エンジェル」という、この取り組みというのは、今、全国的にも注目を集めてますね。

    大隅:そうですね、やはり「身近なロールモデル」と私たち呼んでいますけれども、目線の近い人たちが直接教えてあげる、もしくは伝えてもらえるということに、大きなポイントがあるかな、と。
    あと、色んな分野ですね、例えばある方はロボットをやっている方、牛の研究をしている農学部の人、数学の研究をしている人、あるいはうちの研究室のように、例えば遺伝子だったり、脳だったり、そんな研究をしている人。色んなバックグランドを持ったエンジェルさんが集まっているわけです。その交流会を通じて、「科学」って言うだけでも今はものすごく細分化されていろんなフィールドがあるわけなんですが、そういった人たちが、一体お互いどんなことをしているんだろう、というのを知るためにも役立っていると思いますので、この経験がですね、10年後・15年後・20年後といった時に、またコラボレーションなんかにつながってくれたらいいなと、そんなことも期待しています。

    佐治:それにしても女性・男性に係らず、その研究だけではなくて、新しい科学者を育てていくというのは、これはもうなかなか大変だと思うのですが。大隅さんは科学者にとって、ある意味必要なこと、大切なこと、というのはどういうことだというふうにお考えでしょうか?

    大隅:はい。どうしても科学っていうのは、その色々な成果が出ていくまでにものすごいどうしても時間がかかってしまう部分というのがあるわけですね。撃たれ強いというか、忍耐強いといいますかね。淡々とできる、というようなそういう人も残るというか、成功するというか。そういう子かな、と思いますね。

    佐治:大隅さんは、その若い研究者達と仕事をして、どういう時に喜びを感じられますか?

    大隅:そうですね。うちの大学院生が、「先生、ちょっとこのデータ見てください」と言って、生データをですね、顕微鏡のところに連れて来られて、「なになに?」って言って「あー、すごいじゃん、これ!」とか言って。そういった時は、すっごい心臓ドキドキする楽しい瞬間で、そういった時とか。
    或いは、論文という形になって、それが出て行くときですね。これもまたすごく嬉しいですね。やっぱり自分の作品が世に出ていく、という感覚ですね。丹精込めて育てて、っていうか。
    だからその楽しさを知ってしまうと、それが麻薬のようにといいますか、またそういったことをしたいという気持ちにどうしてもやっぱりつながっていきますので。そういう楽しさを、ですからやっぱり伝えていきたいなと。

    佐治:すごく大隅さんは、育てるっていうことを大切にされていますね。

    大隅:そうですね。うちの研究室に来る人たちは、言ってみれば「うちのかわいい子供たち」みたいなところがありまして。実際のところ、母の日とかにケーキ買って下さったりだの、カーネーションを贈って下さったりとか、そんなこともしているんですけども。
    だからやっぱりまだヒヨコで、本当に大学院生が入って来たばっかりの時は、この子がどうなるのかなぁと心配に思って見てるんですけど、それが、その本当に研究室の中で数年の間に徐々に大きくなっていく、科学者への階段を一歩一歩上がっていっているんだなぁって、そういった人が育っていくこともすごくうれしいことですね。
    やっぱりサイエンスを進める上で、大型な高価な機械を必要だったりすることもあります。だけど「機械」が科学をしているのではなくって、実際にその機械を使ったり、色んな実験をする「人」がサイエンスを進めているわけですね。なので、やっぱり人を育てるっていうことが良いサイエンスをやっていくという、そういうことに一番大きく繋がるというふうに信じているので。人が礎といいますけれども、基本かな、というふうに思います。

    佐治:ありがとうございました。

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