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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.10 小さな化石が明かす地球の歴史・環境変動
理学研究科 地学専攻 石川 仁子

はじめまして。第10回目のSAコラムは私、石川仁子が担当いたします。今回は、地学の世界の一部を皆さんにご紹介したいと思います。地学というとどんな物が思い浮かびますか? 地震・断層・火山・地層・化石・・・隕石などなど? このうち「地層」と「化石」が私の専攻ですが、皆さんの化石に対する概念に新たな色を加えるようなちょっと変わった化石を使った研究をしています。

まず、はじめに私の自己紹介を少々したいと思います。私は、幼いときから生き物や歴史に興味を持っていました。そこで、大学で進学先を選ぶとき両方を勉強できる地学系を受験し、信州大学に進学しました。そして、3年生の時の古生物学実験という授業でのある美しい化石との運命的な出会い(?)が、その後,修士課程から東北大学へ進学を決めるきっかけとなりました。その化石とは「浮遊性有孔虫」という動物プランクトンの化石です(写真1)。化石というと恐竜・アンモナイト・三葉虫・植物化石などどれも皆肉眼で見えるものを思い浮かべる方が多いかと思います。しかし、この浮遊性有孔虫の化石は、大きさが1mm以下と非常に小さく、顕微鏡を用いなくては観察できない化石なのです。これ以外にもプランクトンの化石は色々あり、皆さんの身の回りにもチョーク(石灰質ナンノプランクトン:ただし現在は工業的に卵の殻などから作られています)や七輪(ケイ藻)、星の砂(底生有孔虫)といった形で存在しています。

このようなプランクトンの化石は、非常に小さな化石という意味で微化石と呼ばれています。これら微化石は野外に露出した地層(露頭)からも採取できますが、時間的に連続した堆積記録を得るために、我々は海へ向かいます。海洋底には、過去数万〜数千万年という期間に堆積した地層が乱されることなく保存されています。研究航海は、短いときは数日で終わりますが、長いときは数ヶ月間におよび,研究対象海域へ出かけドリルパイプやピストンコアラーと呼ばれる機械を使って、柱状の堆積物試料(コア試料)を採取します(写真2、3)。採取コア試料の長さも、数mのものから数百mのものと様々ですが、どれも多くの人の協力を得てようやく手に入る貴重な試料です。

浮遊性有孔虫の化石は、ふるいを使ってコア試料を水で洗い、泥を落としてとりだします。現在生息する浮遊性有孔虫の研究から、種ごとの生態や生息環境が明らかになっているため、化石種の産出状況から過去の海洋環境を復元することができます。私は、修士課程と博士課程でインド洋と北西太平洋で採取したコア試料を用い、モンスーン変動の影響を受けた海洋環境の応答について過去20万年間の研究を行いました。この小さな化石を用いた研究の醍醐味は、誰も知らない地球の歴史をこの手で明らかにできるということです。「地球環境の変化が残した証拠(化石記録)をもとに、そのときの環境変動を明らかにする」というこの研究は、まさに事件を解明する探偵そのもの、非常にわくわくする世界です。いっぽうで、そう簡単に謎が解けるわけはなく、難問に出くわすことがありますが、そういうときは想像力を目一杯働かせ、つながりがありそうな研究文献を探しに図書館へ出かけます。

「調べてわかる面白さ」これは何をするにも当てはまることだと思います。たとえば、数センチずつに取り分けた堆積物に含まれる化石を調べ続けることで、20万年間の歴史が明らかになるように、わかったときの達成感をじっくり味わって、一歩一歩でいいと思います。最後に、研究生活を通して私が実感したことをこのコラムを読んでくださった方へのメッセージとして残したいと思います。「小さなことの積み重ねで、大きな目標に到達できる!!」

写真2:九州―パラオ海嶺への研究航海にてピストンコアラーを海に投入する様子。船尾に備えられたウィンチを操作し長さ15mのパイプを曲げないようにゆっくり海中に降ろし、海底の堆積物を柱状に採取します。パイプのてっぺんには500kg以上もあるおもりがついています。
写真3:採取されたコア試料。柱状のピストンコア試料を半割して開いてみると、海底に堆積していた地層が現れます。長さ60cmのこの試料は、約6万年分の記録に相当します。



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