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SAコラム

「SAコラム」は、サイエンス・エンジェル(SA)たちが、自分の研究の様子や普段の生活などを語り、女性科学者(大学院生)としての日常を紹介することで、 多くの女子高校生(及び大学生・中学生)に“私もやってみたい”“理系っておもしろそう”と感じて頂く為に企画しました。一般の方にも科学の面白さをお伝えできれば幸いです。

vol.15 「植物が生きるしくみ」の解明から広がる「地球の未来」
生命科学研究科 生態システム生命科学専攻 機能生態分野 神山 千穂

「エコロジー」。ここ何年かで広く知られるようになった言葉だと思います。これを短縮した「エコ」と、他の単語を合体させた「エコカー」「エコバック」などを見聞きすることも多くなりました。これらは、近年の環境破壊や公害問題が表面化する中で、一般的に省エネルギーで低排出ガスである低公害車や、石油製品であるレジ袋削減を目的とする手持ちカバンを意味する造語で、伝えたいメッセージはつまり「地球に優しく」。

エコロジーは「生態学」と日本語に訳されます。狭義は、生物学の一分野であり、自然の中の集合としての生物を対象として、その「生きる在り様」を解明しようとする分野です。広義には、この生態学的な知見を反映しようとする文化・社会・経済的な考えや活動が含まれ、先に示した「地球に優しく」といったコンセプトに繋がっていきます。私の専門は、狭義の生態学で、さらにその前に「植物」と「生理」をくっつけてさらに限定された「植物生理生態学」という分野です。一体何のことやら、と感じるかもしれませんが、「植物の生きる在り様」を「植物が生きるしくみ(メカニズム)」である生理学的手法を使って解明しようとする分野です。例えば、植物は生きるために、光や水を始めとする様々な資源を必要とします。これらを吸収し、光合成を行い、成長するしくみこそが、生理的機能といえます。動物と違って自由に動き回ることができない植物は、与えられた環境の中で、生理的機能を環境に合わせて変化させることが必要になり、それは植物の「生きる在り様」に強く反映さています。

私が、現在取り組んでいる研究は、山岳地帯の植物群集が、温暖化によってどのような影響を受けるのかを解明することを目的としています。群集の中には様々な種が、お互い影響をあたえつつも共存しています。写真1で、広げている布は1m四方で、その面積の中には10種以上の植物が生育しています(これも調査の一貫で、けしてピクニックをしているわけではないのです!)。環境が温暖になったときにその種間関係がどのように変化するのかを、植物にとって最も大切な資源の一つである「光」に着目し、調べています。温度環境が異なれば、植物の「生きる在り様」が異なることは、緯度や標高の違いによって植物のかたちや分布が異なることからも理解できると思います。このしくみの解明は、温暖化が植物生態系に与える影響を予測する上での基盤としての役割を担っているといえます。

さて、このような基礎的な研究は、人間生活の利便性を追及するものでもなければ、経済効率を高めるものでもなく、社会経済向上のための牽引力として機能することはほとんどありません。しかし、将来の地球生態系を考えたときに、未来の地球と、人類の平和と安全に大きな影響力を持つと、私は信じています。

人間活動の影響による近年の環境問題は深刻です。全世界で様々な異常現象が引き起こされ、2007年夏には、日本各地でこれまでの記録を塗り替える最高気温が記録されたことは記憶に新しいと思います。冒頭で述べた「地球に優しく」という言葉ですが、私は「優しく」ではなく「謙虚に」あるべきだと思います。いつの日か人類が、資源を使い尽くし、多くの生物を絶滅に至らしめ、自らも滅んだとしても、地球は長い歴史の中でおそらくそうであったように、環境をたてなおしまた新たな生命を育んでゆくのでしょうから・・・。

私の行う研究は、生態学という分野の中の、例えて言うなら、本当に細い一筋の水脈にすぎません。しかし、深く掘り下げることによって、地下深くに眠る生態系の根幹をなす流れの探求に、貢献することを強く信じ、時には野山を駆け巡り(写真2)、日々データの解析とその発表をパワフルに行っています(写真3)。



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